発達障害の子どもを取り巻く状況(ドイツ編)

発達障害の子どもが受けられる支援は国によって違います。
日本の状況にモヤモヤを感じている方も、
海外の事情を知ると解消のヒントが見つかるかもしれません。

今回は、ドイツの手厚い支援システムについて
現地で子育て中の山片重信さんにお聞きしました。

「同じ教育を受ける権利」という考え方

ドイツには
「ドイツにいる子どもの権利は守られなければならない」
という信念がある。
国籍がどこであろうと
発達障害であろうとなかろうと
誰もが同じ教育を受ける権利があると国が定めているのだ。

デュッセルドルフ在住の山片さんは、
子どもが4歳のときにドイツに移住。
子どもは、感覚過敏な傾向や数字に強い興味はあったものの、
お友だちが大好きで一緒に遊ぶこともでき、
特に問題になることなく、小学校で勉強することを楽しみに過ごしていた。

ところが、小学校(日本人学校ではなく現地の学校)に入学してから
次々と問題行動を起こすようになった。
2歳で100まで数えられた子どもなのに、
算数の授業は「1、1、1、…」と40回書くような内容。
泣いて「つまらない」と訴え、
授業中に立ち歩く、大声で歌う、窓にのぼる、体育の授業を受けない、
先生にしがみついて離れない、先生のカバンから勝手に物を出す、
友だちのランドセルに絵を描いてしまう、
しまいには友だちの上着を便器に投げ込んだことが発覚。

困った山片さんはいろいろな方に相談をするなかで、
知人の医師から「アスペルガーではないか?」と言われた。
調べてみると、思い当たることだらけだった。

そして縁あって、発達障害の第一人者である
榊原洋一先生の面談を受けることになった。
その結果、「典型的なアスペルガー」と言われ、
英語で作成してくれた診断書を現地の医師と共有することで
さまざまな支援を受けられることに。
しかも、ほとんどが自己負担ゼロだった。

支援の内容

ドイツには日本のような「障害者手帳」はなく、
支援のもとになるのは医師の診断書だ。
病名、度合いなどで細かく分かれた診断コードがあり、
それによって受けられる支援が異なる。
山片さん一家が受けた支援は以下の7つだった。

・専門家との面談・相談
様々な観点からの見立てや意見をもらい、
親の行動面での具体的なアドバイスをいただき、根気強く実行。
ただし、投薬治療はしなかった。

・親同士の自助グループに参加(月1回)
同じ悩みを抱えている親が集まるこの場で出会った方により、
子どもに専属のヘルパーがついてくれることになった。

・グループセラピー(日本でよく行われている療育)
数人のグループで、遊びながら協調性や社会性を育むトレーニングを行った。

・ロゴペディ(ドイツ語のトレーニング)(無料)
ドイツ語がうまく話せなかったため、
週1回、専門家のもとでトレーニングを受講した。

・エアゴペディ(感覚統合療法、作業療法)(無料)
多動や自閉症には身体が関係していて、
筋肉が足りないことによって身体や感情のコントロールが難しくなっている
という考え方から、週1回、身体を使った遊びや作業により
身体をコントロールすることをトレーニングした。

・ハイルテラピー(心理カウンセリング)(無料)
自閉症の子どもたちが多く通っている場だった。
学校や友だち関係の悩みを話し、状況に応じて必要なプログラムを柔軟に行ってくれた。

・付き添い支援員による介助(無料)
学校にいる間じゅうずっと、専属の支援員が付き添ってくれた(5時間×週5日)。
授業中、子どもの横について
問題になる行動が起きたときにサポートしてくれたり、
必要に応じてクラスの外で話をしてくれるほか、宿泊旅行にも同行してくれた。


また、学校での子どもの様子を克明に記載したノートを親に渡してくれたので
状況をよく知ることができたし、コメントを返すことでのやりとりも生まれた。
そして、ギムナジウムに通っている今でも(日本での高校2年生に相当)、
クラスへの付き添いはないものの、相談に乗ってくれるなど
形を変えたサポートが続いている。

子どものことは、保護者、青少年課の担当者、担任の先生、専属のヘルパーで
チームを組んで話し合いをする。
そのなかで、ヘルパーは、メインは担当の子どもをみるが、
せっかく教室にいるのだからクラスのみんなをヘルプしてくれたら助かる、
ということになり、クラス全体をサポートすることに。
その結果、同じクラスの子どもたち全員に
たいへんよい影響をもたらしたという。

さまざまな支援を受けることで、山片さんの子どもは
お友だちと毎日のように約束をして遊ぶ、
誕生会に呼んだり呼ばれたりする、という
発達障害ではない子どもたちがするようなことができるようになっていった。

「人は違うのが当たり前」という社会

子どもがさまざまな問題行動を起こしても、
山片さんは幸いなことに、学校の先生や保護者などまわりの方々から
「困った」「迷惑だ」とは言われたことがなかった。

ドイツでは幼稚園で「ノー」と言えることを学ぶ。
まず自分を大切にし、意見を主張する。
そして、相手の意見を尊重する。
人は違うのが当たり前なので、
違っているからと言って迷惑だとは思わない社会なのだ。
さらに、学校のテストでも合理的配慮があり、
障害のある子どもに対し
テストの時間を長くとってくれたり、
問題文の表現をわかりやすく書き換えてくれることもある。

また、ドイツには子どもを大切にする文化があり、
子どもがいたらおまけやお菓子をあげたりする方が多い。
日本人はただマイノリティな存在というだけで、
「ドイツに住んでいる限りどんな子どもも権利は守られる」
という信念は貫かれている。

「日本では、子どもが迷惑をかけているかも…と心配して
親が謝るのが口ぐせになっているのでは?」と言う山片さん。
ドキッとしました。
それは子どもに「自分のせいで謝っている」
という気持ちにさせてしまう対応で、
あなたは「子ども」が大切なのか、それとも「親の体面」が大切なのか?と。

ドイツのように、子どもに寛容な社会に住んでいるわけでも
手厚い支援をほぼ無料で受けられるわけでもないですが、
親が先回りをして周囲の方々に謝る前に
子どもの様子をきちんと見て子どもに声かけをする、
いまの子どもに必要そうな支援があれば
近くにないか探して受けてみる、
ということをしていきたいと強く思いました。

プロフィール
山片 重信さん

2008年に日本からドイツへ移住。
受験塾の講師を経て、2013年に子どもにさまざまな体験の場を提供するASOBO!、
2016年にそろばん教室を立ち上げ、現在デュッセルドルフとフランクフルトで展開中。
そろばんを通じ、子どもたちに自信を持ってもらい、チャレンジ精神や自立心を育むを活動をしている。
息子さんが小学生のときに、ドイツでアスペルガーの診断を受ける。

インタビュー:2021年2月14日 記事作成:谷中絵美

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