就労移行支援・就労継続支援の紹介(よかず編)

障害者が働く場というと、簡単な作業を繰り返し行う
工場や作業所のイメージを持つ人も多いかもしれません。
そんななか、障害者に「クリエイティブな業界」への就労支援を行っている団体があります。
札幌で株式会社よかずを立ち上げた加納崇行さんに、
その取り組みと今後の展望について話を伺いました。

どのような事業を行っているのですか?

就労移行支援事業所を2か所、就労継続支援B型事業所を11か所、札幌で展開しています。
発達障害だけでなく、身体、精神疾患の方々も対象です。
自分はもともと広告の仕事をしていて
広告作成のノウハウがあるということで、
クリエイティブな業界への就労支援を行っています。

そこではどのようなスキルを身につけられるのですか?

就労移行支援事業所には3つのコースがあります。
まず、officeコース。
Word、Excel、PowerPointなど、パソコンの基本的なソフトを学びます。
次に、クリエイティブな分野のWEBコースではプログラミング、コーディング、
そしてDTPコースでは
Illustrator、Photoshopなどの技術を身につけてもらいます。
人気があるのはofficeコースですね。

8年前にこの事業を始めたのですが、
そのころ、同じことをしている事業所はありませんでした。
自分が広告業界にいたため広告をうまく出せたということもあり
札幌で認知が広まり、最近では同じようなことをする事業所も増えてきています。

どうして障害者にクリエイティブなスキルを身につけてもらうおうと思ったのですか?

8年前、就労移行支援事業所で働いていた知人から
「障害者に仕事を紹介してくれないか」と言われたことがきっかけでした。
それまで自分は障害者福祉については無知で、
障害のある人が訓練をして就職を目指すということを、そのとき初めて知りました。
どういう場所で働いているのかをたずねると、
軽作業に紐づいた工場などが就職先で、
入力代行のようなパソコン作業をすることもあるとのこと。
その就労移行支援事業所から広告業界に就職した人は0人。
まわりにもいないということがわかりました。
だったら、自分が得意とする広告のことを教えていけば、
広告業界に就職できる障害者が増えていくのではないか?
そう思って始めたのがきっかけです。
無知だったからそこ踏み込めたのだと思います。
結果的に、発達障害の方にプログラミングが合っていたということはありますが、
そういうことを計算して進めたわけではありませんでした。

始めたころは競合もなかったこともあり、問い合わせや利用希望者が殺到しました。
それだけニーズは大きかったと感じています。

事業所で教えているのはどのような方ですか?

ジョブコーチや精神保健福祉士の資格を持っている人もいますが、
クリエイティブな内容を教えているという特性上、全体の2割ぐらいです。
それ以外は、もともとクリエイティブな業界で働いていた人たちが
福祉をやっているという状況ですね。
福祉の専門家ではないため、障害者に対して、というより
一人の人間に対して向き合っている感覚です。
「この人はこういう性格だからこういうことをやってもらおう」
というとらえ方で、いい意味で障害者扱いしないのが魅力だと思っています。

就労についての状況を教えてください

事業所に対しての障害者からのニーズは大きかったのですが、
就労移行支援として就職できるかはまた別でした。
今でこそ、障害者の法定雇用率が定められ、一定の割合で雇用する義務がありますが、
当時の広告業界は障害者雇用の認知が低く、就職には苦戦していました。
今はスタッフの経験値も上がり、まわりの認知も関係性も変わってきたので、
参入したときよりは就職活動がスムーズになってきています。

しかし、IT企業などでは別の問題が出てきました。
事業所の支援員は、当事者と担当者の間に入り
障害者をフォローするのですが、
会社のセキュリティが厳しく、社内に入れない場合も多いのです。
そうなると、企業側に障害者の配慮を任せるしかなくなるのですが、
企業の担当者がどう接していいかわからず、
トラブルとなり、離職につながってしまうケースも続きました。

就職先は少なく、就職できても働き続けるのは難しい。
しかし、この課題を解決しないとクリエイティブな企業への就職は難しいと思い、
職場がないのであれば作ってしまったほうがいいのではないかと
考えるようになりました。

自分は札幌に30席ほどのシェアオフィスを借りているのですが、
ここで働いている東京や大阪の企業の方から
「障害者雇用をしたいが、したことがない」という話を耳にしました。
業務内容を聞くと、ブログの記事をひたすら投稿するような
オンラインでできる仕事でした。
そこで、2~3年前に障害者用のテレワークスタジオを用意。
札幌に場所を作ることで、東京の企業に就職してもらいつつ
私たちが間に入って辞めないように支援をしながら働く、
というスタイルが始まりました。

テレワークとして企業で働くことができるし、
スタッフが上司と当事者の間に入って定着支援をできるので、
国の統計では就職して半年で辞める割合が約50%のところ、
この2年で就職した15人のうち、たった1人しか辞めていません。

現在は、障害者雇用をしたいという企業が多く、
PCスキルのある障害者が足りていないという状況です。
大企業の場合、4~5人まとめて雇用したいというニーズもあり、
育成スピードが追いつかないくらいです。

就労のレベルに達するまでどのぐらいの時間がかかるのですか?

これは適性によってまちまちです。
求められるレベルに達するは5人に1人ぐらいで、
パソコン作業が得意な人は半年、
不得意な方の場合、1~2年かかることもあります。
なかには、もともとPCスキルがあり
1か月でレベルに達した方もいました。

事業所ではまず希望のコースを受講してもらうのですが、
1~2週間で適性がわかります。
そのうえで、「その人がどこを目指すか」をもとにして
アドバイスをしています。
本当に就職をしたいなら、適性がないことを続けても仕方ないので
こういう方向がいいとか、
好きなことだからスキルを身につけたいというのであれば、
2~3週間であきらめず半年~1年、このコースで頑張ってみよう、など。

求人への応募は誰でもできるのですか?

どのコースでも、シェアオフィスの方にきた求人への応募はできます。
企業側ではDTPの職種を募集していたけれども、
障害者に事務スキルが高い人がいるとは知らず
結果的に事務職として採用されたという例もありました。

ただし、就職するためにはある一定のレベルが必要なので、
応募するにあたっては実習を行い、
それをクリアした人のみ応募できるようにしています。
また、朝出勤するのがつらいというような状況の方ではなく、
就職しても問題がない人のみ就職活動をしています。
そうしないと、企業側が
採用したけれども仕事ができないじゃないか、
じゃあもう障害者雇用はやめよう、ということになってしまい、
結果的に間口が狭くなってしまうからです。

就労や定着のためにどのような支援をしているのですか?

まず、面接にあたり、当事者に「ナビゲーションブック」を作ってもらいます。
自分の障害はどういうもので、こういう特性があり、
このようなことが苦手だが、こういった対策をとってカバーします、
というものを、口頭でなくテキストで作成し、面接時に提出しています。
強いところ・弱いところをあらかじめ伝えているので、
雇用後に企業側が「これができないじゃないか」と言うのはなしと。
一般の方でも得意・不得意はあります。
それと同じで、苦手なところにどう対応したらいいかを重視し、
あきらめるのでなく、対応方法を考えて
一緒にがんばろうと支援しています。

定着支援では、支援員は仕事内容に対してのフォローではなく
コミュニケーションの課題に対してフォローを行っています。
頻度としては、1週間に一度、あるいは1か月に一度連絡を取り合う程度ですね。
課題は本人に乗り越えてもらい自信をつけてもらうのがいちばんなので、
甘すぎずに接しています。
「スタッフに言われたとおりにやったからうまくいった」
というのでなく、対策を自分で考えてもらうよう促しています。
また企業の担当者に対しては、当事者に言ってはいけない言葉などを伝えています。

今後の展望について教えてください

今は東京の企業への就労が多いですが、
次の展開としては、札幌の企業にもテレワークを活用することを考えています。
まず半年間テレワークで仕事を経験し、
遠隔でコミュニケーションを取り合う。
そうすると、出社して働くようになった際、
当事者がどういう人かをまわりが理解したうえで場所に入れます。
サテライトオフィスをサテライトとして使ってもらい、
ワンクッション置くことで、スムーズに定着活動ができると思います。

企業の側としても、1~2週間で対応を変えるのは難しいです。
言ったからすぐに変わるものではない、
だったら、しくみを作り、それに則ることで
企業のマインドを変えていくのがよいと考えています。
企業が障害者雇用をどう考えるかというのは、企業の文化の問題です。
責任を持って上の人が啓蒙できるか。
当事者がどうこうという話ではなく、
まわりの方々が変わらないとなかなか浸透しないです。

そして企業側も、半年やってみて障害者雇用の考え方が変わらなければ
やらないほうがいいと思っています。
障害者のほうも企業を選ぶ権利はありますから。
現在の就職先はすべて協力的で、当事者に配慮してくれています。
体調が悪ければ無理せず休むようにすすめてくれるなど、
障害者雇用を理解し受け入れていると思っています。

◆株式会社よかず(就労支援トライズ)
https://tryze.biz/

◆就労継続支援B型事業所
https://keizoku-b.com/

インタビュー:2021年4月27日 記事作成:谷中絵美

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