発達障害と診断された方々にとっての「あるある」。 これを理解することによって、サポートする側・される側が よりよい関係を築けるのではないかと考えています。 このコーナーでは、発達障害のある高校生や大学生に ソーシャルスキルトレーニングを行う「START‐Y」の重留真幸先生にお話を伺い、 「あるある」とその背景にあること、 どのようなサポートがあるとよいのかをお聞きしました。
目の前のことについ飛びついてしまう
この傾向は、特にADHDの方にあてはまりやすいです。
たとえば、単位を取るための勉強をせず、
ゼミの先生に言われた期限の全く定められていない課題に取り組んでしまい
単位を落としてしまうとか。
後から聞くと「今やらなくてもいいことだった…」と言います。
優先順位がつけられないんですね。
この状態は「報酬遅延」といいます。
やらなければいけない長いスパンのものは避け、
目の前の片付けやすいことのごほうびに飛びつく、ということです。
これをやらなかったらどうなるか、という想像力が乏しいことも関係しています。
経験していないことの時間見積りの精度が「著しく」悪い
彼らは物事を甘く見ているわけでは決してなく、具体的なところが見えていないんです。
だから、経験していないことの時間の見積りがとても外れることが多い。
1時間で終わると思ったら3日かかるなど、非常に簡単に見積もる、
あるいは逆に難しく見積るという場合もあります。
課題の中身をちゃんと読んでいないために計画がガタガタになることもあるし、
スムーズにいく計画しか立てておらず、身が入らず作業に取りかるまで1~2時間かかる、
やり始めてみてあれも足りなかったこれも足りなかった…となったりして
思うように進まないケースもあります。
経験をしていることでも、似ているけれども少し違う場面などでは起こりやすいです。
計画を立てる経験の不足
こうならないよう早いうちからスキルトレーニングをすればいいと思うかもしれませんが、
高校生ぐらいまでは自己管理の必要がない場合が多いため、
モチベーションが上がりにくいです。
高校までは時間割りが決まっているし、やることを紙で配ってくれ、
担任の先生が「次はこれだよ」と声をかけてくれる。
特に、部活をしていない場合などは毎日がルーティンです。
ところが大学に入った途端、初めて自己管理を求められます。
レポートがある・ない、今日の授業は違う教室とか。
親が子どもに発達障害があることを伝えておらず、
スキルトレーニングにつながらない場合もあります。
子どもにレッテルを貼られるのがイヤとか、
普通級で過ごせるならなんとかそのままにしたいという思いがあるんですね。
タスクを分解し、自分に合う方法でメモを取ることでサポート
では、どうしたら目の前のことに取り組めるようになるのか。
大事なのは、やるべきことにすぐに取りかかれるよう、タスクを小さく分解することです。
1か月先のことだと、ものが見えずに先送りをすることになりますが、
短く区切って具体的に細かく分解していくと
小さなことの積み重ねだということがわかります。
もう一つ、今の大学生はメモを取らない人が多いです。
記憶に頼ってなんとかやっていけると思っているのだろうけれど
社会に出ると自分のキャパシティを超えることも多々あるので、
聞いたことを忘れないようにメモを取ることを
今のうちに練習をしておこうと伝えています。
メモの方法は、人によって合うものが違います。
手帳は買うだけ買うがまっさらだけれどボイスメモなら続けられる、
家のカレンダーのほうがいい、とか。
ただし、そのへんの裏紙に書くのだけはやめてください。
小さいメモはどこに行ったのかわからなくなり、
メモを見つけるためにカバンをひっくり返すことになります。
スマホでSiriなどに話しかけて自動的に登録する、写真を撮るなどもありますね。
ただ、写真を撮ったことを忘れてしまう場合もあるので、
その時々で違うツールを使うことは避けた方がいいです。
メモを取る方法は1つに統一して
「そこを見れば何かが載っているはず」というのがよいです。
学力と違うところで躓いてしまうのはもったいないですよね。 発達障害の傾向がある方は、上記の方法を意識してみてはいかがでしょうか。 また、サポートする方は、 目の前のことに取り組めずに困っている方がいたら、 聞いたことを忘れないよう自分なりの方法でメモを取ることや 本当にやるべきことを小さく分解して取り組みやすくするというやり方を 教えてあげると役に立つかもしれません。
インタビュー:2022年3月7日 記事作成:谷中絵美